「ねぇ、。お願いがあるんだけど。」



教室で、クラスメイトのにそう言われた。しかも、飛び切りの笑顔付きで。
・・・・・・嫌な予感がする。
とはクラスメイトと言うよりも、親友と言える仲だ。だから、彼女の良さや可愛さは、私も熟知している。でも、だからこそ。彼女の怖さも知っているわけで。
私はあからさまに怪訝な顔をした。



「・・・なに?」

「今度、テニス部が休みのとき、買い物に付き合ってくれない?」

「買い物に・・・?」



ますます怪しい。買い物など、普段は「今度の休み、一緒に行かない?」ぐらいの軽い乗りで誘ってくれる。それなのに、今回は「付き合ってくれない?」。絶対に、何かあるに違いない。



「そう。もうすぐ、うちのお父さんの誕生日で・・・。そのプレゼント選びに付き合ってほしいの。」

「それはいいけど・・・。」

「よかった!それから、柳生くんと仁王くんも誘っておいて。」

「・・・・・・え?」

「だーかーらー。柳生くんと仁王くん。同じテニス部なんだから、誘えるでしょ?」



なるほど。嫌な予感はこれだったか。
そりゃ、同じ部活だし、3年間もやってきた仲間だから、それぐらい訳もない。だけど・・・。



「どうして、その2人なの?」

「だって、柳生くんと喋ってみたかったから。」

「・・・初耳だよ。」

「そう?とにかく、私は柳生くんと仲良くなりたい。で、は仁王くんと仲を深めたい。ほら!上手くいってるでしょ?それに、柳生くんと仁王くんは仲いいみたいだし・・・。」

「ちょっと待った、。誰が誰と仲を深めたい、って・・・?」

が仁王くんと。」



ニッコリとまた可愛い笑顔で言ってくるに、さすがの私も限界が来た。



「そんなわけない!!!!」

「もうー。相変わらず、素直じゃないんだからー。」

「そういう問題じゃ・・・!!」

「じゃ、お願いね!ちゃんと親友の頼みは聞いてよ、?」



でも、感情的になってしまった人と、冷静に対処できる人とでは、完全に後者が有利である。私も、例に洩れることなく、に言いくるめられてしまった。

というわけで・・・。



「今度の休み、友達のお父さんの誕生日プレゼント選び、手伝ってくれないかな?」

「ええ、構いませんよ。」

「俺も構わんが・・・なんで、この2人なんじゃ?」



早速、聞かれたよ・・・、その質問。仁王は自身が詐欺師と呼ばれている所為か、人に対して疑問を残すようなことはしたくないみたい。だから、今回も間違いなく聞かれるだろうと思っていたら、案の定。
そのことをに説明し、に言われた通り、私は理由を述べた。



「友達は、普段あまり男子と喋らない子なんだよ。でも、お父さんのプレゼントを選ぶのに、男子の意見も参考にしたいんだって。で、私がテニス部だから、テニス部員の2人にお願いしたんだよ。」

「でも、俺と柳生じゃなくてもよかったじゃろう?」



この質問に関しても、ちゃんとから指示を受けている。



「だから、友達は男子に慣れてないんだけど・・・。柳生なら友達も喋りやすいんじゃないかと思って、ね。」

「じゃあ、俺は?」



それに関して、が嬉しそうに用意した答えは・・・・・・。



『仁王は・・・私が一緒に行きたいから。とでも言っておけば?』



言えるかー!!!!!
って言うか、そんなわけない!!



「仁王はオマケだよ、オマケ。男子1人、女子2人じゃ柳生に悪いだろうから、もう1人・・・って考えたときに、柳生と仲良いのが仁王だろうな、って思っただけ。」

「それじゃあ、俺は行けんくても問題ないってことじゃな?」

「そうだね。仁王が無理なら、他を当たるよ。」

「心配しなさんな。さっきも言ったように、俺も大丈夫じゃし。」

「そう。じゃ、当日はよろしくね、2人とも。」

「はい、わかりました。」

「任せときんしゃい。」



とりあえずの計画通り・・・じゃない部分もあったかも知れないけど、一応2人を誘うことはできた。

そして、休みの日。私とは一緒に集合場所へ向かった。そこには当然のように・・・。



「やぁ、柳生。やっぱり、早いね。」

「こんにちは、さん。それと・・・さん、でしたね?」

「うん。今日はありがとう、柳生くん。」

「いえ、少しでもお役に立てるのであれば・・・。」



女性を待たせるわけがない、さすがの紳士が1番に到着していた。さらに優しい対応で、話したことのないとも、既に良い雰囲気になりつつある。
これじゃ、完全に私は邪魔者だ。仁王の奴、早く来てよ!と思っていると・・・。



「よお。俺が最後か。待たせたのう。」

「ううん。まだ時間前だから大丈夫だよ。仁王くんも、今日はありがとう。」

「いやいや、気にしなさんな。」



・・・・・・そうだよね。私服・・・なんだよね。
見慣れない姿に思わず見惚れ・・・・・・。



「どうした、?」

「な、何でもない!それより、。もう全員揃ったんだし、お店に向かおうよ。」

「そうね。」



そう言って、は私を見ながら微笑んだ。・・・・・・はいはい、わかったわかった。
今日は、のお父さんの誕生日プレゼントが目的だ。でも、もう1つはが柳生くんと喋ってみたい、ということ。だから、私はこれ以後、できる限り仁王と話すように、と言われていた。
この微笑みは、それを実行にうつせ、という合図だろう。私は渋々、仁王の横に並んだ。



「ところで、仁王。仁王にしては、早かったんじゃない?」

「そうか?」

「もう少し遅れてくるかと思ってたよ。」

「失礼な奴じゃなー・・・。」

「日頃の態度が悪いからだよ。」



などと喋っていると、私たちの前では、と柳生が仲良さそうに会話をし始めていた。やっぱり、結構良い雰囲気だよなぁと思っていると、仁王もそれに気付いたらしく、そっと私に呟いた。



「もしかして。今日俺らを誘ったんは、が柳生と仲良くなりたいため、か?」

「・・・まぁね。」

「なるほどな・・・。」



本当は言わない方が良かったのかも知れないけど、言っちゃいけないとは約束していなかった。それに、どうせ仁王には私のウソなんて、簡単に見破られる。だから、あえて真意を伝えた。
それを聞いた仁王は、少し考えた後、また私に呟いた。・・・・・・耳元は、できれば止めてほしいんだけど。でも、仕方ない・・・わね・・・。前の2人には聞こえないようにしなくちゃならないんだから・・・!と言い聞かせ、心を落ち着かせる。



「だったら、店に着いたとき、俺は1人で自由に行動しようとするから、はそれを止める振りをして、俺について来んしゃい。そうすれば、アイツらを2人きりにできるじゃろ?」

「・・・そうね。」

「じゃ、前の2人のために、そういう作戦でいくぜよ?」

「了解。」



やっぱり、仁王に説明して良かった。事情を知らせた方が、こうやって、より協力してもらえるもんね。しかも、仁王は騙しの天才。きっと、上手くやってくれる。
それから、他愛も無い話を続け、いざ店に着くと早速作戦が決行された。



「お、この店・・・。ちょっとスマンが、先行っててくれんか?ここの2階に、前から見たい所があってのう。俺は1人でそっちに行ってくるぜよ。それじゃ・・・。」

「なっ・・・!ちょ!仁王!!・・・ゴメン、と柳生。私、仁王を連れ戻して来るよ。」

「・・・わかった。お願いね、。私たちは3階に居るから。・・・それじゃ、柳生くん。それまでお願いできるかな?」

「はい、大丈夫ですが・・・。さん、私と代わった方がよいのでは?」

「ダメだよ。柳生は男性の意見として、に協力しなきゃならないんだから・・・。だから、こっちは任せて。すぐに合流するから!」

「・・・そうでしたね。それでは、お気をつけて。」

「ありがとう、それじゃ!」



2人と別れ、一応急いで、仁王を追う。・・・すると、仁王がエレベーターに乗り込んだところが見えた。
・・・アイツ・・・、本当に行きたい所に行こうとしてるだけなんじゃないの?!しかも、テニス部員がエレベーターなんて使うもんじゃない!!トレーニングのために階段を使いなさい!!
私はエレベーターよりも手前にあった階段を駆け上がった。・・・何なら、エレベーターに乗った仁王よりも早く着いたかも知れない。テニス部マネージャーを甘く見ないことね!・・・とは、さすがに言い過ぎたようで、私が着いたころ、ちょうどエレベーターも着いたようだった。
でも!私の方が上り始めたのは遅いわけだから、やっぱり階段の方が・・・・・・なんて思いながら、エレベーターから下りるお客さんを見ていたけど、そこに仁王の姿は無かった。
あれ・・・。もしかして、もう着いてたのか・・・。くそ・・・。負けた・・・。いや、そんなことより。仁王はどこに?と、辺りを見渡してみたけど、すぐに見つからなかった。
もう・・・一体、どこに・・・。



?」

「わっ!に、仁王!」

「俺を探してたんか?」

「別に・・・。」



突然仁王に声をかけられ、驚いてそんな返事をしてしまった。別に探してない、なんて続けそうになったけど。追いかけて来て、探していなかった、じゃ変な話だ。
だから、慌てながらも、冷静になって言葉を続けた。



「一応、私は仁王を連れ戻しに来たわけだからね。探さないわけにはいかないでしょ。・・・それじゃ、そろそろ3階に行くよ。」

「待ちんしゃい。そんなに早く行く必要は無いじゃろ?」

「どうして?」



平静を装っている私とは裏腹に、仁王はちゃんと落ち着いた様子で説明をしてくれた。・・・なんか、悔しい。
とにかく、仁王の話では。私がなかなか仁王を見つけられなかったことにし、しばらくしてから合流すれば、と柳生をより2人きりにできる、という作戦だった。たしかに、それもそうだと思い、それから2人で2階をぐるぐると見て回った。

そろそろいいだろうと、3階に行けば・・・。今度は、本当にたちと合流できなくて・・・。会ったときには、既にの買い物が終わっていた。



「だから、今から帰ろうと思って・・・。」

「そうなの?!ゴメン、・・・。」

「ううん、気にしないで。・・・仁王くんも、わざわざ来てくれたのにゴメンね?」

「いや・・・。そもそも、俺が勝手に行動したんが悪いし・・・。こっちこそ協力できんで悪かったな。」

「大丈夫だよ。仁王くんも見たい所があったんでしょ?ちゃんと目的は達成できた?」

「・・・あぁ、そうじゃな。」

「それはよかった!じゃ、帰ろうか。」



が楽しそうに言った。・・・まぁ、が満足しているようだし、いいか。
それでも、表面上は仁王を責めておこうと、私は1番に階段を下りながら、後ろを向いて仁王に話しかけた。・・・のが良くなかった。



「もうー・・・。仁王が先に行っ・・・・・・。」



行っちゃうからだよ。そういうことを言おうとしたけど、思ったように足が着地できなかった。・・・と言うか、若干体が浮いている感覚。
・・・つまりは、踏み外したってこと。
マズイと思って、とりあえず手で支えられるように、と前に伸ばしたら・・・思いがけず、その手を掴んでくれた人物が居た。しかも、もう片方の手でしっかりと私の体を支えてくれた。



「大丈夫か、?」

「・・・ありがとう。」



私はそう言うと、パッと手を離し、急いで仁王から離れた。
でも、もうちょっと、そうされていたかったかも・・・・・・いやいや!そんなことはない!!そんなことを思ってしまったと知れたら、後ろのに何を言われたものか・・・。もしが居なかったら、もう少しあのままで・・・・・・って、だから違ーう!!!
・・・だけど、本当はやっぱり、ちょっと惜しい気がした。だって、仁王の手がすごく優しくて・・・頼れるなーって感じがして・・・。
あぁ!!もう、調子が狂う・・・!



「足、挫いたりしとらんか?1人で歩けるか?」

「うん、大丈夫だよ。」

「そうか。・・・喋るためとは言え、後ろを向くんは良くなかったな。」

「ゴメン・・・。」

「本当ビックリしたよ・・・。気をつけて帰ろうね、。」

「ええ、本当に・・・。でも、無事でよかったです。」

「ありがとう、と柳生。」



誰も私をからかうことなく、優しく心配してくれた。・・・いっそ、からかってくれた方が、私としてはこのどうしようもない恥ずかしさを発散できたのに。

その後も特にネタにされることもなく、普通に帰路につき、いつの間にかと別れる道まで来ていた。



「それじゃ、。今日はありがとうね。」

「いやいや・・・。役に立ったか、わかんないけどね。」

「ここから2人は別れるのですか?」

「そうだよー。柳生と仁王はどっちだっけ?」

「私はこちらなので、さんを送って行きます。さんは仁王くんに任せますね。」

「りょーかい。んじゃあな、お2人さん。」



こうして、私と仁王がその場に取り残された。



「・・・あの2人、思ったより仲良くなってるみたいだね。」

「そうじゃな。」

「これで私たちの役目も終わったね。・・・んじゃ、仁王。仁王も帰っていいよ。」

「何を言っちょる。俺もを家まで送ると、柳生と約束してたじゃろ。」

「いや、アレは2人の前だったから、でしょ?別にわざわざ守る必要ないって。」

「そうじゃとしても、女を置いて帰るほど、俺は情けない奴じゃないぜよ?」

「そもそも、私を女扱いするのが変だと思うよ。」

「そんなことはなかろう。」

「だって、部活なら、今よりももっと遅い時間なのに1人で帰ってるよ?」

と一緒じゃなかったのか?」

「一緒のときもあるけど、部活の終わる時間が違うから、大抵は1人だね。」

「・・・それは早く言いんしゃい。」

「なんで?」

「明日からは俺が送る。」

「いいよ。そんなことしてもらう理由がないもん。」

「理由ならある。」

「何?」

「俺がのことを好きってのは理由にならんか?」



その場に、というだけでなく、時間からも取り残されたかのような気になる。
全然頭がついて行かない。



「え?・・・何言ってんの??」

「・・・あまり、人の告白を聞き返さんでほしいのう・・・・・・。」



だけど、そう言った仁王は、とても残念そうで・・・。



「本気?」

「当たり前じゃ。こんなことでウソを吐いてどうする。」

「そ・・・うだよね。」

「で?はどうなんじゃ?俺のこと・・・どう想う?」



真剣な眼差しで仁王が尋ねる。そこには、少し不安そうな色も見えた。
私は・・・・・・仁王のことを・・・・・・。
どうしても言いにくかったけど、大きく呼吸をしてから、思い切って口にした。



「・・・・・・・・・好き、だよ。」

「そうか。ありがとう。」

「いや・・・こちらこそ。」



不安が消え、嬉しそうに笑う仁王を見て、結局私は仁王に惚れ直す。・・・そうだよ。やっぱり、好きなんだよね。

このことをに報告するのも躊躇ったけど・・・に言わないわけにもいかないし、次の日、その成り行きを説明した。



「本当?!よかった!!じゃあ、昨日の目的は達成ね!!」

「・・・もしかして、初めからそのつもりだったの?」

「そうよ。昨日はお父さんのプレゼントを買うこと、それと、もう1つはと仁王くんが仲を深めてくれること。それが予想以上に深まって嬉しいわ!」

「・・・・・・。まさか、柳生と話してみたいっていうのはウソだったんじゃあ・・・。」

「ウソじゃないわよ。1度は喋ってみたかったわ。それで、昨日はと仁王くんのために協力してね!ってたくさん喋れてよかったわ。」

「・・・・・・じゃあ、昨日、3階でなかなか会えなかったのも、柳生がを送ると言い出したのも・・・。」

「全て、計画の内、ね!」



また綺麗な笑顔で言われ、私は溜め息を吐きたくなった。今となっては、あの紳士な柳生のことも、恨めしく思えてくる。
・・・でも、そういえば。柳生も仁王のダブルスのペアだ。完全な紳士であるわけはない。詐欺師の部分も持ち合わせているんだ。



「ただ、予想外だったのは・・・。この計画が仁王くんにバレちゃったことかしら。まぁ、そのおかげで、そこまで進展したみたいだからいいけど。」

「え・・・。アイツ、気付いてたの?!」

「そうだと思うわ。たぶん、店に着く前から気付いてたんじゃないかしら。・・・さすが、詐欺師の異名を持つ仁王くんは簡単に騙されてくれないみたいね。」



じゃあ、気付いてなかったのは私だけじゃない・・・。
私は、この3人には一生勝てない気がするけど・・・いずれ見返してやるっ!!と、泣く泣く決意した。













少し長めでしたかね・・・?(汗)それなのに、最後まで目を通していただき、誠にありがとうございます!

これは、ある日見た夢がきっかけで書いた作品です。夢は、私が好きな人とやたら競争していて(ペット同士の競争とかもやってました/笑)、最終的に階段から転んだ私を・・・・・・って感じの内容でした。その階段から――の部分がキュンと来たので、ドリーム化させてみました!(笑)
ちなみに、夢の中でのお相手は仁王さんではなく、架空の人物だったのですが。何となく、仁王さんのイメージに近かったので、久々に仁王夢を書いてみました。

('09/12/28)